あの山この沢
神ノ川平石沢右俣から黒岩先端へ
藪に覆われ尾根道からは近づきがたい黒岩に
平石沢右俣左沢の右をつめて底部から登頂
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コースタイム
仮設ゲート500m→(5分)平石沢出合(長者舎山荘
)510m→(20分)二俣F1上590m
→右俣へ→(22分)岩小屋のすぐ上の二俣645m→右へ
→(8分)二俣風インゼル上670m→(9分)垂直8mボロボロ滝上710m
→(8分)二段13m滝・大岩上745m→(20分)二俣820m→左沢へ
→(25分)最奥の二俣945m→右へ→(25分)仕事道が横断1080m
→(15分)黒岩直下(底部)1110m→(15分)黒岩付根(基部)1150m
→(3分)黒岩先端1150m→(5分)尾根の黒岩展望台1160m→鐘撞山方面へ
→(18分)934mピーク→南東尾根を下降→(12分)800m付近左の尾根に
→(20分)井戸沢(炭焼跡)520m→(4分)神ノ川林道485m→(5分)仮設ゲート
2008年3月9日
★神ノ川ヒュッテ付近から北西の方向にある稜線を見上げると、稜線直下に大きな黒々とした岩峰が聳えている。これが通称「黒岩」だ。
★この稜線は大室山から伸びる県界尾根で、ちょうど黒岩付近がジャンクションピークとなって北東から真東に向きを変えて鐘撞山方向に高度を下げていく。稜線には登山道はあるが、この黒岩付近から934mピークまでの急降下するルートは荒れている。
★この黒岩に登山道から接近しようとすると、伐採跡の枯れ枝が散乱堆積していて、しかもイバラやトゲのある藪に覆われていて、岩峰のそばにはなかなか近づけない。2006年9月に登山道から接近して断念した
顛末は、「神ノ川流域
黒岩」のページを参照。
★記録によると、古くは昭和39年に奥野幸道氏によって写真紹介されたらしい。しかし、その後この岩峰先端に登攀した記録はなさそうだ。06年9月に僕が尾根道から近づいてみ
たものの接近しがたいことを記載すると、幾人かの方々からの問い合わせがあり、「上からは取り付きにくいので、下の平石沢右俣を遡行して黒岩底部に達するのがいいのかもしれない」と答えたことがある。その後07年になって、7月28日に「ドブ鼠」さん『丹沢徘徊記』が、11月3日にはAYさん『俺の山紀行』が、翌11月4日にはSAさん『丹沢写真館』が次々と登頂されたようだ。イガイガさん『イガイガ丹沢放浪記』は9月16日に挑戦されたようだが、
僕の説明が悪くて右沢に入ってしまい到達には失敗されたようだ。このうち、沢から挑戦
したのはイガイガさんのみ。ドブ鼠さんは、尾根から登頂して平石沢を下降している。
★参考意見を述べた手前、平石沢から果たしてうまく黒岩にツメることができるのかいつかは遡行してみなければならないな、それも枯葉も落ちきり最も藪の薄くなる春直前がいいかなと、おぼろげに時期を考えていた。
★久しぶりに雪深かった今年の丹沢も3月に入って急に雪解けが進み、予想外に残雪が少なく藪は歩きにくかったけれど、やっと念願の黒岩登頂に成功した。もう少し残雪が多ければ長靴で行く予定だったのだが、先日沢の出合の様子を見たところまったく通常の沢支度でよさそうだったので、いつもどおり地下足袋で行くことに。しかし標高800mを越すと、日陰は至る所ザラメの残雪で、かなり寒い思いをしてしまった。
★平石沢右俣の遡行の詳細については、「神ノ川平石沢右俣」のページを参照。
☆黒岩に登るには、以下の平石沢右俣の滝場をロープなしでしかも巻くことなく遡行できる技量が必要です。下部の滝を楽に越すことのできない方は、黒岩には登頂しないことをお勧めします。大変危険です。接近も危険です。
★昨年9月の台風9号で神ノ川流域では土石流の発生でかなりの沢筋が荒れてしまったが、この平石沢も例外ではなく、下流の右俣左俣に分かれるF1まではでは以前と比べ流路が変わり、ゴロタの堆積具合も変わってはいる。しかし、大きな釜も寒い季節でなければジャブジャブ入ればすむので、二俣までは難なく遡行できる。
★F1は右から釜をへつって雨後であれば水流のあるはずのところを直登。続くF2は釜に入って滝壁の右端を攀じる。ここは右の植林対から小さく巻くこともできる。ここで水流はほとんどなくなる。
★岩小屋の上で左からガレ沢が出合うが、右に入ってしばらくで一見二俣風になる。左の10m滝は無視して右に入って小滝をよじ登ると、先の二俣風の左の窪み
(滝)が上で出合う。
★垂直8mのボロボロ滝は、中央から右上に延びるクラックを慎重に登って、落口上にトラバース。ザレているのでスリップに注意。
★階段状8m滝を越すと、上部に大岩が2個かぶさる2段13m滝。下部は左から取り付けば楽。この上の滝も脆いが登
れる。今回は左のザレたルンゼに入ってみた。大岩を巻いて滝上に出れた。沢に下りるのに1mジャンプ。
★820m付近で二俣となる。ここから西北西の上部稜線に黒岩が見える。直進すると、934mピーク付近にツメてしまうので、ここは左沢に入る。日陰に残雪が現れる。
★ゴーロの河原を進むと、945m付近で泥混じりの顕著な二俣となる。ここが最奥の二俣だ。黒岩は見えない。黒岩にツメる予定でなければ、左の本流に入るほうがよい。旧日陰沢新道に辿り着く。こちらは、「神ノ川平石沢右俣」のページを参照。
★沢の傾斜は増し、所々大きな岩が現れる。傾斜があまりなければボルダー広場にでもなりそうだ。沢筋が藪っぽくなって付近の植林帯の枝打ちした枯れ枝が散乱し非常に歩きにくくなる。おまけにトゲのある藪も漕がなくてはならない。雪をかぶった放置された枯れ枝の上を何度も踏み抜きながら上部を目指す。夏場だとやはり大変かもしれない。
★ほとんど溝がなくなってくると、さらに巨岩が増える。そのうち、仕事道が横切る。まだ黒岩はどこにも見えない。この仕事道がただトラバースしているだけなのか、ジグザグ
と黒岩の上部に抜けてくれている(稜線から黒岩に近づこうとすると、黒岩から南へ離れて下っていく仕事道がある)のか不明(多分、犬越路からの水平道だろう)だが、正面は植林が密集しているので、しばらく右へトラバースする。
★30mも行かないうちに、左手真上に植林や潅木の隙間越しに黒々とした岩峰が見えた。あれだ! 仕事道から外れて、なるべく藪の少ない岩礫を伝って直上するが、トゲが痛い。傾斜も急だ。藪と密生した潅木に遮られてはっきりとは見えないのだが、あたりを見渡すと他にもいくつか岩峰らしき巨岩がある。本物の黒岩かどうか見間違えていないか確認しながら喘ぎ喘ぎ這い登っていく。
★やっと黒岩本体だと確信できるまでには、もう少し接近しなければならなかった。左にも似た岩峰があるのだ。しかし、かなり接近すると、黒岩はこれ以外にはありえないだろうと分かるぐらい底部が大きい。しかも仰ぎ見るとものすごく高い。その前に左から登るのか右から登るのか決断しなければならないのだが、藪を避けるように登ってくると、自然に左(黒岩の南
側斜面)からの登攀となってしまったが、これで正解。
★やっと黒岩の底部に達した。ハングして屋根のようにかぶさっているため、乾いた土に植生はない。ここまでの傾斜がここだけは少し緩やかになっている。
★ここからは黒岩には登れないので、岩の積み重なってできた尾根の斜面を潅木を頼りに頂上の刃渡りの基部(付根)を目指す。潅木がなければロープを出さなければ怖いだろう。登っても登っても右手の黒岩は大きい。なかなか黒岩を見下ろす位置に達しない。半分ぐらい登ると、やっと遠くまで景色が見渡せるようになるが、同時に高度感が出て緊張してくる。
★かなり登ってくると、基部の位置がはっきりして、
このルートでよかったのだとホットする。基部(付根)までの横移動はさほど難しくはない。岩の積み重なりと幾本かの潅木で安定している。
★付根からヨイショと黒岩に乗り先端めざし刃渡りに近づくと、刃渡り手前は右に傾斜しているが少し広くなっている。が、ここから刃渡りにどうやって乗っかり移動すればいいのか、左右が切れ落ちた絶景を前に立ちすくんでしまった。
★刃渡りは、斧の刃のように左は垂直以上に切れ落ち、右は30度ぐらいの角度で切れ込み1mぐらい下からはやはり垂直になっている。立っている位置でさえすでに尾根の斜面から突出してはるか真下に黒岩基部が見えるのに、刃渡りにヨッコラショと跨ることなんてとてもできそうもない。いかにして先端に行けばよいか岩の左右を観察してみると、左(北面)の下2mぐらいの所に先端に向かって残雪が幅30cmぐらい乗っかっているバンド(棚)がある。淵には所々スズタケが生えている。先端まで延びていそうだ(写真最下段左から4枚目の遠景写真での白い残雪のライン)。
★付根まで戻って左側(黒岩北面)に降りてみる。こちら側は日当たりがないせいか、じめっとした感じだが潅木も際に生えていて何とかなりそうだ。もう一段降りるとバンドだ。残雪の下は泥か石屑か分からないが雪に足をたっぷり埋めて少し安心感を持って
かぶさり気味の岩壁に張り付くように前進。刃渡りの側面を過ぎて先端下まで来るとバンドは徐々に登って狭くなる。まだ先端の頂上に這い上がれないので、先端の突端に回りこむ。頂上テラスが目の前に開けた。丸く馬の背のようになっている先端の壁をテラスの岩礫をホールドにして這い上がる。登れた! 予想外に広い。
★這い上がったものの周囲すべて切れ落ちていて、すくっと立ち上がるのが怖い。へっぴり腰でじわじわと立ち上がって写真を何枚か写す。風がビュービュー唸っている。平らなテラスは直径1.5mぐらいの円形状だが、周りじゅう何もない空間なので、どっこらしょと座ってゆっくり昼食ってなわけにはいかない。すごい高度感にほとんど一歩も足を動かせないぐらいだ。
★丸くなった突端を這い登ったので、今度はこれを這い降りなくてはいけない。ハングした黒岩の先端の突端から後ろ向きに身を乗り出して降りることになる。足場が見えないので、恐る恐る感触を確かめながら足を伸ばしてじわりとバンドに降りた。一度踏みしめた残雪に足が滑る、怖い怖い。
★基部まで戻ったら、また南面に降りて、ここから真上のスズタケの猛烈に群生した藪に突っ込む。傾斜は急だが、スズタケを掴んで強引に前進すると、今度は伐採した植林の枯れ枝の堆積に行く手を阻まれる。上部の黒岩展望台の伐採地の淵にあたるのでここさえ乗り越せばいいのだと、分厚く堆積した枯れ枝の「ダム」にがむしゃらに乗り上がる。うっかり折れたりスッポ抜けたりしたら、かなりの急斜面だから一気に黒岩底部まで落ちるかもしれない。幸いに枯れ枝のダムに無事乗り上がることができ、檜の幹を掴んで展望台地に着けた。これで一安心。
★展望台地の少し上に登山道があるのだが、広い尾根の植林帯に入るとまだ残雪に覆われて道が不明。しかし、ここは県界尾根、山梨県側は自然林のままだから植林帯の中を、適当に下っていくと雪も消えて道が現れた。
★急降下して934mピークで登山道は左折して鐘撞山に向かうのだが、今日はこのピークから南東に延びる尾根を下ってみた。始めのうちは踏跡は不明瞭だが、植林帯の中に作業道がしっかりある。急降下する尾根に対し道はジグザグしているので、適当にカットしてまっすぐ下っていくと、標高800m付近で尾根が2つに分かれる。この分岐は分かりづらいが、左手に顕著な尾根が伸びているので見落とすことはなさそうだ。
★左の尾根をこれもジグザグ下る。植林が檜から杉に変わって井戸沢の音が聞こえてくるあたりから下では道が所々崩れているところが出てくる。
★井戸沢に下りると道は右岸に沿って少し下る。対岸に渡ると、炭焼跡で鐘撞山からの下山道と合わさって、3,4分も下れば神ノ川林道に出る。