あの山この沢

丹波川、火打石谷左俣
まぼろしの大滝の怪
まぼろしの大滝は火打石谷本流(右俣)ではなく、
人が入った形跡のないこの左俣にあった
 

画像をクリックすると拡大されます。


青梅街道余慶橋から見た丹波川、この先が小常木谷出合

火打石谷出合、
このあたりはテント
も張れる

いきなりゴルジュ

ゴルジュの中の滝、
小滝の通過に手こずる先行パーティ

大岩の滝、
左右どちらも濡れ
ながら登れる

7m滝、左から巻く

しばらくは
苔むした
ナメが続く

再びゴルジュ
深い釜と
小滝が続く

ゴルジュの中の小滝群、簡単そうだが難しい滝が多い

高巻くよりもシャワークライミングで突破する方が楽

ナメが美しい
ゴルジュを貫ける
まで暗い谷が続く

濡れながら登る

小滝が連続する

8mナメ滝

10m二条の滝

二俣手前の8m滝
奥に大滝が見える

二俣左岸上部から見た大滝

70m大滝の全貌、
滝壺は埋まっている

右俣の大滝手前の
5mナメ滝

右俣の40m大滝、
水量多く、釜は深い

落口に咲くヤマユリ

70m大滝上から見た落口付近の河原、
8m滝はない!

大滝上部も小滝が続くが、困難な滝
はない

水量が減ってもナメは続く、最後は岩窪は熊笹の藪に消える

栗山尾根、痩せて急傾斜だが踏跡はある

コースタイム
余慶橋(青梅街道)665m大常木林道経由(20分)火打石谷出合675m
(30分)7m滝(懸垂)上765m→(90分)大滝手前10m二条滝下1035m
(15分)
70m大滝直下(二俣)1060m(60分)70m大滝 落口1120m
(30分)
奥の二俣1210m(70分)源頭(岩窪笹薮に消える)1510m
猛烈な熊笹の藪漕ぎ(70分)栗山尾根1690m(40分)岩岳尾根(前飛竜直下)1895m
大常木林道(150分)火打石谷出合→(20分)余慶橋

2002年7月20日
「まぼろしの大滝(70m)」を秘める丹波川小常木谷の一大支流火打石谷は、困難な高巻きを強いられる滝もあることから遡行する人も少ないためか、遡行記録や大滝の写真もあまり見ることがない。そのため、出回っている遡行図に大きな誤りがあることも知られていない。
山と渓谷社『奥多摩の谷123ルート』(1996年刊)の遡行図によると「まぼろしの大滝」は火打石谷の本流にあることになっているが、実は谷は大滝直下で二俣になっていて大滝は本流(右俣)ではない支流(左俣)にある。右俣にも二俣から30m上流に大滝があるが、これは落差およそ40mであり、落差に大きな差がある。側まで近寄れば両方を見比べることができる。
最近刊の山と渓谷社『決定版関東周辺沢登りベスト50コース』によ っても、編著者が同一だから大筋は変更が加えられていない。6年間の間に遡行する人もほとんど疑問を抱かないで遡行してたのだろうか。
★火打石谷に入るには、青梅街道余慶橋の丹波寄りの際から始まる大常木林道に入って4mも行くと丹波川本流左岸に降りる踏跡があるのでそこから降り、丹波川の大ゴルジュを渡渉を繰り返して小常木谷出合まで遡行し、小常木谷のゴルジュを抜けると、すぐに火打石谷出合だ。または橋を渡って150mも行くと小常木谷出合へ下る急な階段がある。今回は、2週連続の台風のせいで水量が多かったので、大常木林道を通って出合まで入ったが、前二者の方法の方が時間的には早い。「丹波川 小常木谷」のページを参照。
参考タイム(1996年8月31日)余慶橋→丹波川・小常木ゴルジュ帯経由(10分)火打石谷出合
★余慶橋から直ぐに下降して丹波川本流経由については「火打石谷、栗山尾根の下降」のページ参照。
★火打石谷に入るとすぐに薄暗いゴルジュになる。ゴルジュの中の小滝は濡れることを覚悟であればどれも巻かずに登れる。
ゴルジュ出口の7m滝はガイドブックでは最悪の高巻きのように記載されているが易しい。右岸のグズグズの泥ルンゼを登り、滝の側壁から離れないように上部に抜けると台地状になっている。沢筋に戻るように進むと、大木の根っこが露出した垂直な泥壁となっているので、後ろ向きで降りるか懸垂で降りる。約7mの下降で広い河原に降り立てる。どこに登攀困難な泥壁があり下降では斜め懸垂を強いられるのかわからない。6年経て、前著とまったく変わらない情報を別著で流すなど、『ガイドブック』としては最低であろう。
★直登不能の滝もなるべく小さく巻き、落口に近づきながら降りることがコツ。大滝までは全般にさして困難な高巻きはない。
10m二条の滝を過ぎるとすぐ目の前に『大滝の門番のようなやつ』と書かれている8m滝がある(実際にはそんな高さはない)。この狭まった滝の向こう正面には『まぼろしの大滝』が見えるが、この位置からは全貌は見えない。右壁をヘつるようにして登っても落口への一歩が水量が多すぎて、足も体もとられてなかなか乗り越せない。そこで慎重に戻って巻くことになるが、ここからが問題の『なぞ』だ。
★大滝を垣間見たことで目的半ば達成とばかり、ガイドブックの遡行図を信じて少し戻って10m二条滝を巻いて降り立つ水流のあるルンゼ(または8m滝右手の泥ルンゼ)を一気に大滝上まで巻くか、とりあえず8m滝だけ巻くかで、
「大滝が本流にありその上部に降り立ちその上流を遡行した」気になるか、「8m滝上で二俣となり、大滝は正面の左俣にあり、本流は右折している」ことに気付くかの違いを遡行者にもたらす。
★★本流である右俣は5mナメ滝を越すと先の8m滝と似たような狭まった小滝を持っている。この小滝の先はまるでお椀の中のような地形で、ここに左から大滝が爆音を轟かせて大水量で落ち込んでいる。しかしこちらの大滝の落差はせいぜい40mぐらいだろう。70m大滝とは30mも離れていない距離でほとんど平行して落ち込んでいることになる。「知られていない滝ということで幻の大滝というのか」、「しかし、それでは大滝(40m)手前のもっと大滝(70m)がなぜ遡行図に書かれてないのか」、疑問だらけの二俣である。
遡行図によると大滝手前の右からのルンゼを登って大滝上部の8m滝上まで巻くことになっているが、このルートだと当然に右俣上部に辿り着くのであって、左俣の上部には達しない。高巻き途中で一旦本流を通り越して隣の沢に降りるなどありえない! 上記の遡行図を書いた人もあるいはその遡行図をたよりに遡行した人たちも、結局10m二条の滝を巻いた後、すぐに現れるハング気味の8m滝を前にして、ここから正面にかすかに見える左俣の大滝を確認して、 8m滝の側にまでも行くことなく10m滝を巻いて降り立つ水流のあるルンゼを登り大高巻きを開始したのだろう。高巻き中大滝が2つ見通せる所がなく、ガイドブックの著者やその仲間達は見えていた滝(70m滝)を高巻いたつもりで、見えていなかった別の滝(40m滝)を高巻いていたことに気がつかなかったのだろう。
しかしこのルンゼの左の岩壁の向こうには8m滝のすぐ上で右折している本流がある。大滝の全貌を見てみようと好奇心を持っていたなら、ルンゼをよじり岩壁に移って岩壁を8m滝落口方向(左)にトラバースして支尾根を乗り越せば、この二俣を確認できたろう。逆に、二俣の本流(右俣)を高巻きのためのルンゼとは考えにくい。
★★遡行図を無視して本物の大滝の登攀を考えると、平行している70m滝と40m滝の滝の侵食による後退から取り残された中間尾根に求めるしかない。下部は泥混じりのブッシュ帯を強引に直上し、上部はブッシュもまばらな岩壁登攀となる。直上は岩峰で行く手を塞がれるので、大滝落水から離れないように左上するが、上部ほど岩が外傾しているしまばらなブッシュもぐらぐらのものばかり。落口が見えそうな位置まではロープ無しで登れるが、そこからジグザグにトラバース気味にルートをとるしかなさそうなので、ロープ回収のことも考えダブルでの懸垂のようにロープを 8環にセットしオートブロックで仮固定して上に抜けた。これは片手でのロープの繰り出しも容易だった。
★落口の5〜6m上流のナメに降り立ち、水流に寝そべり水をがぶ飲み。大滝の高巻きに約1時間もかかった。ここにはガイドブックに書かれている8m滝はない。
★大滝より上部はナメやナメ滝が続き、かなりの急傾斜でゴーロになることもなくそのうち岩窪状となるが、倒木がかなりわずらわしい。水流は1500m付近まである。 人が入った形跡がない。
★岩窪がクマザサの密生地に消えると、獣道の踏跡もない急傾斜の藪を強引に漕いで高みを目指す。根元を這うように漕ぎ、頭上を見るとぐクマザサの葉の下にはウグイスの巣がいっぱいあった。
高度差約180m、70分近くの藪漕ぎの末、辿り着くのは、前飛竜直下から派生する栗山尾根 の1690m付近。火打石谷と小常木谷を分ける尾根である。ミサカ尾根を下るにしろ岩岳尾根(大常木林道)を下るにしろ、前飛竜まで標高差約200mは登るようになる。
栗山尾根には大常木林道の所々にある古い赤布と同じ赤布があった。この尾根を下ると火打石谷出合に降りれそうだ。ただしおよそ1500m地点で左へ派生する尾根に分岐するのだが、後日この辺りへよくキノコ採りに入っている老人に聞いたところ、その分岐が分かりにくいそうだ。火打石谷出合に架かる橋を 渡ってすぐに大常木林道から右に分岐し尾根に上がる明瞭な踏跡(写真は右俣のページ参照)がある。ここを30mも上がると台地状になって造林小屋が建っているが、ここに降りてくるようだ。
栗山尾根の下降は「火打石谷左俣、栗山尾根の下降」のページ参照。
★当然のことだが、(ガイドブックどおりに)奥の二俣を右にとると、ミサカ尾根ではなく、火打石谷の右俣と左俣を分ける支尾根に出ることになるだろう。
結局、まぼろしの大滝(70m)のある左俣は、前飛竜につめ上げる本流ではなかった。右俣本流にも大滝はあるが、70m大滝を前にしては『まぼろしの』と形容するほどのものではなかろう。だが、本流の滝は見えていない滝だから『まぼろしの』滝なのか。
火打石谷右俣のページもぜひ見てください。

<home       <奥多摩top